2008年 08月 03日
戦争の話をしてください~この雲も、嵐も |
すこし寒いので
小枝をピンで止めて
毛布にくるまっています
ネルのシャツを着て
貝殻のボタンを
指でいとおしんでいます
ここは海の上で
明るみのほうから
しめった風が吹きます
子どもたちは雲の下
ごはんが炊けても
まだ蛇の園で
遊んでいます
かつてなべての土地には
幸福の名があてがわれ
たましいには不確かな
闇が下りていました
わたしに
戦争の話をしてください
やさしい惨劇に
つつまれていたいのです
まぶたの裏で
たくさんの人が焼かれる光景を
見ていたいのです
まもなく
雪が降ります
わたしはこれから
長い長い
嵐を待つのです
長い
嵐を
それはずっと
ずっとむかし
いちどきに
通り過ぎたもの そのあとで
木叢にゆっくりと
降り注いだもの
まだふたりが根の浅い
夜だったころ
水面はあなたの息に誘われて
くろぐろと波うっていました
それはずっと
ずっとむかし
空に焼き付いた光 それは
とてもとても明るかったから
わたしたちは眼を
うしなうことにしました
そして小匣に入れたものを
もういちど思い返してみました
子どもの歯が三本
入っていただけ あの
なつかしい恐ろしさは
もうすでに
尽くされていました
わたしにたくさんの
たましいをください
わだつみのむこうで安らっているものを
揺り起こして
この雲も
嵐も
わたしが呼んだのです
それはずっと
ずっとむかし
夜の後ろで
ちいさく壊れたもの
あの時、土を枯らし
すべての鳥を啼かせたのは
わたしだったから
どうしても
そうしたかったから
(note:神奈川新聞文芸コンクールでの受賞作から二作。どちらもテーマ的・空間のサイズ的には同質の詩。愛ちゃんもこれは二篇で一枚の絵。お互いに夢中で読んで、夢中で描いていたと思う。これはもう、舞踊のような愛ちゃんの動きをごらんください)
by stcl
| 2008-08-03 21:14
| 詩/collaboration